1.社内教育は「何から始めればいいのか」
人材不足や働き方の多様化などを背景に、企業における人材育成の重要性はますます高まっています。
その一方で、
「新入社員研修は実施しているけれど、その後の教育までは手が回っていない」
「階層別研修や管理職研修も必要だと思うけれど、何から始めればいいのか分からない」
と悩んでいる企業も少なくありません。
社内教育には、新入社員研修だけでなく、階層別研修や全社員研修、職種・部門別研修など、さまざまな種類があります。しかし、特に人員や予算が限られる中堅・中小企業では、すべての教育を一度に整えることは難しいでしょう。
実際に厚生労働省の「職業能力開発基本計画」でも、中小企業については「単独で職業能力開発に十分対応することが困難な状況にある」と指摘されています。(出典:厚生労働省「職業能力開発基本計画」)
だからこそ、最初から「研修を増やそう」「eラーニングを導入しよう」と考えるのではなく、まずは社内教育の全体像を知り、自社の現状や課題を整理することが大切です。
現在どのような教育を実施しているのか。自社にはどのような教育が必要なのか。そして、何から優先して取り組むべきなのか。
本記事では、社内教育の主な種類を整理したうえで、自社に必要な教育を見つけ、実際の取り組みにつなげるまでの考え方を順番に解説します。
2.社内教育にはどのような種類があるのか
社内教育といっても、対象者や目的によって内容は異なります。
まずは代表的な教育・研修を整理してみましょう。
| 教育の種類 | 対象者 | 主な教育内容 | 主な目的・ゴール | こんな企業・悩みに |
|---|---|---|---|---|
| 新入社員研修 | 新入社員 | ビジネスマナー、会社理念・ビジョン、業務の基本、コンプライアンス、商品知識など | 社会人としての基礎を身につけ、理念やビジョンを理解し、自社の一員として早期に活躍できる状態を目指す →即戦力化 | 新卒採用を行っている、早期離職を防ぎたい、理念・ビジョンを浸透させたい |
| 階層別研修 | 若手・中堅・管理職 | 各階層・役職に必要な知識や技術、コミュニケーション、リーダーシップ、マネジメントト、評価、主任研修、部長研修など | それぞれの階層・役割に求められる知識やスキルを身につける →昇格後に活躍できる | 若手・中堅社員を育成したい、主任・管理職など役職に応じた能力を身につけてほしい |
| 全社員研修 | 全社員 | コンプライアンス、情報セキュリティ、ハラスメント、理念浸透など | 全社員に必要な知識や意識を共有する | 法令対応を徹底したい、組織の一体感を高めたい |
| 職種・部門別研修 | 営業・製造・エンジニアなど | 商品知識、専門知識、業務フロー、資格取得など | 業務品質や専門性を高める | 部門・職種ごとに必要な知識やスキルが異なる |
| 自己啓発・選択型研修 | 希望者 | ビジネススキル、資格取得、DX、語学など | 社員の主体的な学習を支援する | 社員満足度や成長意欲を高めたい |
社員の成長段階や職種、会社が抱える課題によって、必要になる教育は変わります。
だからこそ、「他社が管理職研修をやっているから、うちもやろう」と考えるのではなく、誰に、何を、何のために学んでもらうのかを考えることが重要です。
※もしも、新入社員研修もあまりできていない場合は、こちらの記事をご参考ください。

3.現在の社内教育と実施体制を整理しよう
社内教育の種類を把握したら、次に行いたいのが現在の教育状況の棚卸しです。
2章の表を参考に、自社で現在実施している研修を書き出してみましょう。
その際は、研修名だけでなく、
「誰を対象にしているのか」
「何を学んでもらっているのか」
「何を目的・ゴールとしているのか」
まで整理することがポイントです。
すでに何年も続けている研修であっても、「毎年やっているから」という理由だけで継続するのではなく、現在の会社や社員の状況に対して、対象者や目的が適切なのかを改めて確認してみましょう。
3-1.自己啓発・選択型研修は分けて考える
棚卸しする際に注意したいのが、会社が受講を求める教育と、社員が自主的に受講する教育を同じものとして考えないことです。
例えば、新入社員研修や階層別研修、全社員研修、職種・部門別研修などは、会社側が「この知識・能力を身につけてほしい」という目的を設定して実施するものが中心です。
一方、自己啓発・選択型研修は、社員自身の「学びたい」「成長したい」という意欲に応えることを目的としています。
両者では、目的も実施方法も、期待する効果も異なります。これらを同じ基準で導入・評価してしまうと、「費用をかけたのに思ったほど受講されなかった」といったミスマッチにつながる可能性があります。
3-2.「何をやっているか」だけでなく「誰がやっているか」も整理する
教育内容とあわせて、実施体制も確認しましょう。
誰が研修を企画しているのか。教材は誰が作っているのか。実施後の管理は誰が担当しているのか。そして、それぞれにどの程度の時間や人的コストがかかっているのか。
中堅・中小企業では、専任の教育担当者がおらず、人事担当者がほかの業務と兼任していたり、各部署がそれぞれ独自に教育を行っていたりすることもあります。
ここで重要なのは、社内教育を人事・教育担当者だけの仕事にしないことです。
例えば、人事・教育担当者だけでカリキュラムや実施方法を決めても、現場から「通常業務が忙しく、研修の時間を確保できない」と言われてしまえば、計画どおりに進めることは難しくなります。また、教育に必要な予算や時間を確保するには、経営層の理解や後押しが必要になることもあります。
そのため、現在の教育内容や実施体制を整理する際には、経営層や各部署の責任者など、 今後の教育を進めるためのキーパーソンもあわせて確認しておきましょう。
社内で教育の方針や実施体制を整理していく中で、自社だけでは対応が難しい部分については、外部の専門家を活用する方法もあります。

4.会社の課題を整理し、教育の目標・優先順位を決めよう
現在地が分かったら、次は「これから何をするか」を考えます。
4-1.現状の課題を整理する
まず、
「離職率を下げたい」
「新人の立ち上がりを早めたい」
「管理職を育成したい」
など、自社が教育によって解決したい課題を整理します。ここで大切なのは、最初から「○○研修をやる」と決めないことです。
4-2.課題の原因を特定する
次に、その課題がなぜ起きているのかを考えます。
例えば、「若手社員の離職率を下げたい」という課題があったとします。その原因の一つが「管理職が部下との適切なコミュニケーションやマネジメント方法を十分に理解していない」ことであれば、必要なのは若手社員向けの研修ではなく、管理職向けのマネジメント研修かもしれません。
「誰に」「どのような知識・能力が不足しているのか」まで掘り下げることで、初めて必要な教育が見えてきます。
※「若手社員の離職率を下げたいのであれば、こちらの記事がおすすめ」

4-3.現在の課題だけでなく、企業として必要な教育も考える
一方で、社内教育は現在起きている課題だけを基準に考えればよいわけではありません。
情報セキュリティ、コンプライアンス、ハラスメント予防、人権教育など、現時点で大きな問題が起きていなくても、企業として実施を検討すべきテーマがあります。
こうした教育は、将来的な企業リスクへの備えになるだけでなく、取引先から教育体制を求められる場合などにも関係します。
「今困っていないから必要ない」ではなく、今後起こり得るリスクまで含めて必要な教育を考える視点を持っておきましょう。
全社員に繰り返し伝える必要がある内容については、自社のルールや事例を盛り込んだオリジナルの動画・教材として整備することも一つの方法です。
※「研修動画の制作・活用について詳しく知りたい場合はこちらの記事がおすすめ」

4-4.必要な教育に優先順位をつける
必要な教育を洗い出したら、優先順位を決めます。
特に人員や予算が限られる中堅・中小企業では、すべてを同時に始める必要はありません。
「会社にとって重要度が高いか」
「多くの社員に共通する課題か」
「取り組んだ成果が比較的見えやすいか」
などを基準に、優先順位を考えてみましょう。
必要な教育や優先順位を決める際には、3章で整理したキーパーソンと連携することも重要です。各部署の責任者から「現場ではどのような課題を感じているのか」をヒアリングし、経営層とも今後の人材育成方針を共有しましょう。現場と経営、それぞれの視点を取り入れることで、自社の課題や方向性に合った教育を検討しやすくなります。
※「限られたリソースで教育を実施しなければならない場合はこちらの記事がおすすめ」

5.自社に必要な教育から始めよう
社内教育を充実させるために、最初から完璧な教育体系を作る必要はありません。
まずは社内教育の種類を知り、現在実施している教育とその体制を整理する。そして、自社の課題と原因を明確にし、必要性・優先度の高い教育から段階的に取り組んでいきましょう。
また、研修内容を決めただけでは、教育は定着しません。
実際に研修を始めても、「現場が忙しくて受講する時間がない」となってしまえば、計画した教育を十分に実施できない可能性があります。
そのため、実施前から各部署の責任者と「いつ、どのように受講するのか」といった運用イメージを共有しておくことも大切です。必要に応じて経営層にも協力を求め、「毎週○曜日の1時間を研修時間にする」など、会社として教育の時間を確保するルールを設ける方法もあります。
社内教育は、人事や教育担当者だけで完結するものではありません。経営層や現場を巻き込みながら、無理なく実施できる体制を整えることが、教育を継続していくうえでも重要です。
また、社内教育を継続していくためには、「どのような教材・コンテンツを用意するか」と「どのように運用・管理するか」も重要です。


